金城樓は、石川県金沢市において130年あまりの歴史を持つ料亭旅館だ。美しい街並みで知られる茶屋街や兼六園にほど近い金城樓の建物は、もともと加賀百万石の前田家のお屋敷だったものを、金城樓の初代・土屋九兵衛氏が引き継いだもの。その構えを目の当たりにして、金沢を代表する料亭の風格とはこのようなものかと感じてしまう。
金城樓は、その歴史の深みのみならず、供される食事の素晴らしさで定評がある。日本海の海の幸や能登の山の幸、魅力的な加賀野菜といった食材を伝統的な加賀料理に昇華するのが、料理長の加茂野氏だ。
素晴らしい食材に溢れる能登のご出身で、子供の頃の遊びといえば海に潜るか、釣りをするか。自然と魚や食べるものに興味が出たという。高校卒業後、大阪の料理専門学校へ。当時、メディアに登場するようになった高級フランス料理に憧れてのことだったが、卒業後に選んだのは日本料理の金城樓だった。日本料理の伝統的な技術を磨きながらも、休みになれば気になる店の味を確かめに、京都に食べ歩きに出かける日々だったそうだ。
金沢といえば、日本海の新鮮な海の幸や、加賀野菜をはじめとする山の幸などの佳い食材が集まる街だ。そんな金沢において金城樓は、「一番よいものを買うことができる店」だと言う。
「ブリやカニなどは、セリにかけられる前に漁港でその日の一番品質の高いものを購入することができます。お米や野菜も契約農家からいただいていますし、治部煮に欠かせない合鴨も金城樓仕様のものを契約しています。」
そんな絶対的な自信に溢れる金城樓の厨房に、エイジングブースターが置かれている。いったい、どのようないきさつでエイジングブースターに出会ったのだろうか。
「弊社の代表が京都でエイジングブースターを使用している店で実機に触れて、四国計測工業さんに試用をお願いしたのが、ことの始まりです。」
2年ほど前、エイジングブースターのマエストロと言ってもよいほどに実機を使い込んでいる「京遊膳 花みやこ」(茨城県ひたちなか市)の西野正巳さんが、京都の料理旅館である「美山荘」でエイジングブースターを紹介する会を催した。その場に、金城樓の代表取締役である土屋兵衛さんが参加していたのだ。
とはいえ、トップがなんと言おうとも、現場の料理長が柔軟でなければこのような先進的な機械を導入するというのは難しかったはずだ。
「最初に入れてみたのが湯葉なんです。マイクロ波にどんな効果があるんだろう、と思いながらやってみたら、観ただけでわかるほどにトロトロに柔らかくなって、旨みも甘みも強くなりました。」
湯葉の熟成は、エイジングブースターの庫内温度4℃、芯温5℃、風量8%という設定で1日熟成をかける。比較的、庫内温度も芯温も高めに設定している。実際に店で使用している湯葉を、熟成前と熟成後で比べられるように出していただいた。写真の右が熟成前、左が熟成後のものだ。すでに見た目だけで違いがあることがわかるだろう。熟成促進したものは飴色のようなベージュ色が少し濃くなり、テリテリと輝いている。
口に入れると、はっきりとしたとした違いが舌に伝わってくる。舌触りがネットリとろけるような、魅力的な感触になっており、明らかに甘さが濃く、旨みも増しているのだ。
加茂野料理長はそこから、様々なものを試してみたという。中でも「これは」と思ったのが昆布だそうだ。
「金城樓では真昆布でだしを取っています。昆布の世界も面白いもので、最上級の昆布は10年以上、温度や湿度の管理をした蔵で寝かせたものがキロあたり100万円もするそうです。当店でも110℃で15分ローストするなどして、昆布のおいしさを引き出す道を模索していました。もしかするとエイジングブースターで昆布も旨くなるのではないかと思って実験したところ、大当たりでした。」
右が仕入れたままの昆布、左が熟成促進をかけたものだ。エイジングブースターの設定は庫内温度4℃、芯温7℃、風量8%で、7日間かける。金城樓ではこのように昆布をその姿のままで熟成促進している。
「個体差もありますが、色合いが濃くなります。これでだしを取るのですが、水も昆布の分量も、抽出温度も変えていないのにも関わらず、味の深みがとんでもないほどに変わっているのです。だしの色が綺麗に発色し、旨みが強くなるのですが、全体的な味わいはクリアになり、昆布臭さがなくなります。よい要素だけが残って、鰹節との相性がよくなる。本当にびっくりしましたね。」
この昆布でとっただしを飲み比べてみたが、何から何まで、加茂野料理長の言葉通りの結果となっていた。特に、昆布特有の臭いがやわらぎ、旨みの効いた味わいになっているのが顕著にわかる。これが発見されて以降、金城樓で使用する昆布はすべて熟成促進をかけているそうだ。
先に、10年寝かせた昆布の話しがあったが、エイジングブースターで7日間かけた昆布は、何年寝かせた昆布に匹敵するのだろうか、興味深いところだ。