周防灘の海が見える地域から車で5分ほど軽く上った、住宅街の一角にエヌトロワがある。「本当に、フレンチレストランがあるのだろうか?」と不安になりながら探している身としては、この白いモノリスのような建物が目に入って「ここだ、ここに違いない!」と安心できる。
この印象的なデザインの店舗は、建築家である野村夫人が設計したものだそうだ。
野村さんは、バリバリの地元育ち。工業系の高校に通っていたが、16歳の時にフランス料理店でサービスのバイトを経験。野村さんは74年生まれなので、当時はまだバブル絶頂期。ピアノの生演奏が流れる店で、同伴の女性を連れたお客がワインをガンガン開けていく世界を目の当たりにする。そこで感化されたのか、料理の世界に関心を持つようになった。
結局、工業系の道へは進まず県内の有力ホテルの飲食部門に就職、フランス料理の基礎を学び、ウエディングやバンケットの部門で腕を磨く。
「当時はいまのようにWebで技術や情報を検索できませんでしたから、30万円する料理専門書のセットを購入して、手探りで料理をしていましたね。」
地元ホテルの後は淡路島でのリゾートホテルの立ち上げスタッフとして働き、関東へ移動して東京を中心にホテルの厨房に立ち、夏の繁忙期は軽井沢で立ち働くなど活躍。一貫してフランス料理人としてのキャリアを積んだのち、2016年にこの宇部の西岐波に店を構えた。自分の店では、ルーツである山口県の地元で生産された食材に光を当てたいという強い想いをもって始めたそうだ。
ちなみに「エヌトロワ」という店名はフランス語で「Nと3要素」という意味だ。そのNが表すのは野村さんの頭文字、そして3つの要素が「アムール(愛)、テロワール(風土)、そしてロマン(恋愛や冒険)の3つだそうだ。なるほど、山口県のテロワールを、愛を持ってロマンに満ちた料理に昇華する。それこそがこの店の目指すところなのだろう。
さあ、そんなエヌトロワに、なぜエイジングブースターが導入されたのだろうか。
野村さんがエイジングブースターの存在を知ったのは、インターネットで「こんな調理機器がある」という情報を見たときのこと。ブログだったかSNSだったかはいまでは思い出せないそうだが、まだ正式販売をしている状態ではなかったそうだ。
「肉や魚の熟成にしか使えないのであれば、それほど魅力を感じなかったと思うのですが、どんな食材にも使えるというのが魅力でした。四国計測工業さんに連絡をとって、しばらく使わせてもらい、導入を決めました。価格は安くはありませんが、それによって得られるものが大きかったので、それほど気にはなりませんでしたね。」
という。そんな野村さんは、エイジングブースターをどのように使うのか。
「エイジングブースターは多くの食材の味をよくする機械なので、できる限り、下ごしらえの段階で利用するようにしています。例えば当店ではイカやフグ、タイといった魚をよく使うのですが、軽く塩を当てた状態でエイジングブースターに入れて一晩ねかせることが多いです。言ってみれば一夜干しの感覚ですね。一晩ねかせるだけで、うま味がグッと前面に出て、食感も柔らかくなる。熟成をかけているかいないかということはお客様にはわからないかもしれませんが、結果として料理がおいしくなっているので、満足度として伝わると思っています。」