山本:さて、前半戦では小川シェフ、萩シェフからの提案食材を熟成促進させ、いずれの食材も分解が進んだまろやかな味わいになることが確認できました。ただ、ここまではこれまでの経験上、いわば想定内です。
これが和の食材だとどうなるか、いよいよ西野さんからの提案食材を実験してみましょう。
西野:そう言われると緊張しますね(笑)面白い結果が出るといいのですが。ただ、和食の世界でもエイジングブースターの可能性が大きいことは間違いありません。
山本:やはり和食界からもこの装置への期待は大きいですか?
西野:日本料理では熟成促進のために発酵の技法を多用しますが、発酵だと風味に角が出てしまうので、それを後から薄めることが普通です。
しかし、それではせっかくの旨味まで薄まってしまう。
そこで、このエイジングブースターを使って食材の旨味をそのままに熟成が促進できれば、可能性はかなり大きいです。
山本:なるほど、いま世界中の料理界で発酵がブームですが、発酵で生まれる味わいの角をどうとるかというのは、とても高度な話です。今日の実験がますます楽しみですね。
では、西野さん、本日の食材を教えてください。
西野:はい。まず、地元の茨城県で上がったスズキを持ってきました。やはり和食とエイジングブースターの相性を考える上で、魚を使った検証は欠かせませんので。
そして、これも和食ならではの食材で、大粒納豆、ポン酢、日本酒で検証をしてみようと思います。
山本:どの食材も結果が非常に楽しみです。では、まず調理が必要なスズキから試してみましょうか。
みなさん、一度厨房の方へ。
西野:こちらが本日のスズキです。ただ、これは熟成に長時間かかるので店にある装置で既に熟成促進を完了させてきました。
庫内設定は1℃・10℃、風量は20%から50%で6時間です。
山本:これを今日は刺身で試すということでしょうか?
西野:刺身と、火を入れた状態ということで天ぷらにもしてみたいと思います。
では、小川シェフに包丁をお借りして早速切ってみますね。切っている感じは、脂の部分が見た目からして違いますね。
山本:やはりそうですか。萩シェフのとんかつと同じだ。
西野:ではみなさん、まずは刺身から試食してみてください。
左:エイジングあり 右:なし
萩 :旨味の出方が違いますよね。熟成促進していない方は身が引き締まり過ぎている感じがする。
西野:違いが出てよかった!さあ、天ぷらも揚がりましたので、こちらもどうぞ。天ぷらは衣の付き具合も違うんですよね。
左:エイジングあり 右:なし
小川:天ぷらは刺身に比べて旨味の出方が分かりやすくなっていますね。
山本:西野さん、ご自身で試食されてみていかがですか?
西野:刺身は熟成促進することで深いコクがでて、味の余韻も伸びていますね。これに下味をつければ、もっと可能性が広がると思います。
一方、天ぷらは水分が抜けた分、旨味が早くガツンと伝わってきます。刺身と天ぷら、どちらも予想より良い結果です。
山本:魚の水分が抜けるということで、この装置と魚の相性は良いということですね。今回はスズキでしたが、他に可能性がありそうな魚は何がありますか?
西野:以前、店でアンコウに使ったところ非常に良かったです。アンコウは水分が多いので鮮度が良くても刺身に使えないという難点があります。
そこで、この装置を使って水分を飛ばせば、これまで捨てられていた身の部分も美味しく料理できる。これは昨今のSDGsの観点からしても好ましいことですよね。
萩 :そういえば、私の地元・福島でも和食の料理人がアンコウは水分が多くて唐揚げにできないと悩んでいました。熟成促進させればアンコウの唐揚げも出来ますか?
西野:できるでしょうね。魚に関してはエイジングブースターで料理の幅が一気に広がる可能性があるわけですよ。
山本:いやあ、熟成促進させたアンコウ、ぜひ食べてみたいものです。
そうこうしている間に、大粒納豆が装置から出てきました。なお、庫内設定は0℃・25℃、風量60%で20分ですね。こちらも頂いてみましょう。
西野さんが茨城県から持参してくれた大粒納豆。
左:エイジングあり 右:なし
西野:見た目にはあまり変化ありませんが、糸の引き方は違いますね。
萩 :味わいはやはり熟成促進させた方がまろやか。クリーミーです。
小川:大豆の風味が際立っているような感じもしますね。ただ、装置にかけた方が、粒立ちが良いような。
山本:本当だ。普通、分解が進むから逆だと思ってたけど、確かに装置に入れた方が粒感の立ちがよいですね!
西野:これは予想外ですね。もう少し時間をかけて熟成を促進させると、より変化が分かりやすくなるかもしれません。
山本:たんぱく質と油脂を含む大豆を原料にしたものが納豆ですから、エイジングブースターにかけることによって柔らかくなると考えられるのに、粒感が立っているように感じるとは、、、ついに想定外の結果が出てきましたね。
さて、続くポン酢と日本酒はどうなるか、検証を進めましょう!