大宮時代、常連のお客が「肉のエイジングを進める機械があって、それを使ったフレンチの店がとても美味しいんだよ。」と教えてくれたことが、金田さんの耳に残った。教えてもらったその店こそ、首都圏では早い段階からエイジングブースターを活用するKitchen G3(五反田)だ。紹介を受けて足を運び、料理を食べると、とても美味しい。店主の山口さんもエイジングブースターを見せながらその原理と使い方を教えてくれた。
「これを使えば、いまの焼鳥屋ができていないことを実現できるかもしれない、、、」と金田さんは直感したという。それこそが、比較的若い鶏の胸肉の熟成だ。
金田さんが修業した店も含め、多くの焼鳥店が使用するのが、50~70日程度の若齢で育てた柔らかな鶏肉だ。地鶏肉は75日以上育てることが義務づけられており、多くは100日以上飼育されている。それゆえ、味はよくても食感が硬くなることが多く、焼鳥に向かない肉質のものも多い。それに対して若い鶏の肉は柔らかだが、飼育期間が短い分、うま味はうすい。それゆえ、甘辛いタレを付け焼きしながら焼くことで美味しくしているのが大衆料理としての焼鳥なのだ。
「タレで焼くというのは、いわばドーピングなんです。若い鶏肉には強いうま味がありません。ただ、鮮度のいい若鶏肉は食感が心地よく、風味もいい。そこに、うま味や香りの濃いタレをまとわせて焼けば、とても美味しくなるわけです。」
とりひろで使用する水郷赤鶏は、若齢とは言いつつも肉質のよいロードアイランドレッドの血統が濃く、しかも70日程度飼育期間を設けているため、通常の国産若鶏に比べれば肉質はよい。でも、エイジングブースターを使えば、また違う美味しさの焼鳥を生み出せるかもしれない。Kitchen G3の山口さんを通じて四国計測工業に連絡をし、試用を経てすぐに「これだ!」と感じて購入を決心したという。
「いろんなものを入れて熟成を試しましたが、一番はまったのが赤鶏の胸肉です。正直にいうと、赤鶏の胸肉はいいところがあまりありませんでした。どう火を入れてもパサつきますし、うま味もありません。ところがエイジングブースターにかけると、驚くようなうま味が生まれます。しかも、熟成で肉の線維が柔らかくなっているからか、しっとり感も出てきます。」
エイジングブースターの設定は、庫内温度が2℃、芯温は10℃まで上げて、風量が10%とやや弱め。水分を飛ばしすぎないようにしつつ、芯温はかなり上げている。この設定で、胸肉は3~4日間の熟成をかけている。
胸肉はこのように、骨から切り離し、拡げた状態で熟成する。芯温計は肉に刺すのではなく、ダミーに刺している。肉にダメージを加えないためだろう。
上の写真の右側が通常の胸肉、左側がエイジングブースターにかけた鶏肉。熟成がすすみ水分が抜けているのがみてとれる。とはいえ、風量が少なめであるせいか、肉質のしっとり感は失われていない。
じつはエイジングブースターを試用した時期、金田さんは大宮から恵比寿への移転を検討していた。大宮は埼玉県の中心ではあるが、やはり高級業態として勝負するなら東京、それも激戦区の恵比寿だ。そこに打って出る際に、エイジングブースターは武器となりうる、と感じたのだ。
かくして恵比寿に開店した「とりひろ」のコースで最初に出てくるのが、エイジングブースターで熟成した水郷赤鶏の胸肉である。後ろにある機械を見せて説明をしながら出すこともあるが、多くのお客がその美味しさに驚き、満足してくれているという。その後、一品料理を二~三皿愉しんでもらってから本格的に焼鳥が始まり、地鶏のササミなどの淡白なものから味の濃いものへと転じていく。
中盤の華ともいえるのが、通常のハツと熟成を施したハツの食べくらべだ。
「ハツもエイジングするとうま味が増強されます。まさにうま味の塊とも言えるような味わいになるんです。通常のハツを食べてから熟成したハツを食べると、多くのお客様が驚かれますね。」
そこから皮などをはさんで、エイジングしたつくね串が出てくる。このつくね串が、やはりうま味たっぷりでありながら上品な香りの一品となっている。
「ひき肉というものは、言い方は悪いですが、普通の焼鳥店からすれば鮮度の悪い肉の行き着く先です。臭みなどを消すために醤油を入れたり、味付けをするわけです。でも、うちのつくねはエイジングした肉をひき肉にしています。そうすると、香りがよいままうま味が生まれますから、調味料を足す必要がない。ですから、最低限の調味で焼いています。」
ハツとつくねに関しては、熟成時間は24時間程度。胸肉にくらべるとやや短めで効果が出るという。