熟成革新
Kitchen g3(五反田)
Kitchen g3(五反田)

五反田の繁華街の一角、雑居ビルの三階に隠れ家のようなレストランがある。「この場所でこんな料理が!?」とお客に驚かれるような創意に溢れた料理を出すことで、通人の間で徐々にその名が知られてきた店が「Kitchen g3」だ。

気鋭の山口弘シェフは、エイジングブースターのことを聞いた瞬間に「探していたのはこれだ!」と感じたという。その使いこなしも、メーカーである四国計測工業の想像を超えている。レストランにおける食材の熟成技術をどう考えればよいのか。これを聞きに五反田へ向かった。

(取材・文・撮影:山本謙治)

食材
設定
肉質の硬い在来種の経産豚を風味豊かに柔らかくエイジング
Kitchen g3(五反田)
Kitchen g3(五反田)
雑居ビルの三階に上がり、ドアを開けてすぐのところに、エイジングブースターが鎮座している。常に食材を入れて熟成をしているので、中身はギッシリ詰まっているのが外からもみえる。
山口弘シェフ
「今日は、沖縄の在来豚である今帰仁(なきじん)アグーを焼きます。経産豚、つまり何産か子豚を産んだお母さん豚の肉なので、とても肉質が硬いのをエイジングで仕上げました。」と山口さん。
今帰仁アグーの肉
骨付きで分厚くカットした今帰仁アグーの肉は、豚肉とは思えないほど濃い肉色に、分厚い脂だ。
今帰仁アグーの肉
カットした状態のまま、スチームコンベクションオーブンに肉塊を入れ、ある程度火入れをした後、温度帯を変えながら再度火を入れる。
 
「経産豚の肉は緻密なので、同じ温度で火入れすると旨く焼き上がらないんです。」
今帰仁アグーの肉
エイジングブースターで熟成をしたことで、水分の抜けた表面がカラメルのように焼き上がっている。この塊に最後、フライパンで熱した油をかけ回す「アロゼ」をして、骨付きロース肉を焼き上げる。
今帰仁アグーの肉
今帰仁アグーの肉
今帰仁アグーの肉
ナイフでおおぶりにカットした肉を頬張ると、適度な食感でサックリと肉の線維に歯が通り、濃い豚の香りとジューシーな肉汁が口を満たす。一般的な豚肉からは感じられない濃い旨みでクラクラしそうだ。
 
「沖縄の北部にある今帰仁村で在来豚を育てている生産者の高田勝さんに会いに行って、感銘を受けました。値段の関係もあって、通常豚ではなく経産豚を出荷してもらうんですが『硬いですよ?』といわれます。骨付きロースで送ってもらったものをエイジングブースターに入れて、芯温10℃、庫内温度-3℃に設定。長いときには一週間ほど熟成をかけます。そうすると、肉がふんわり柔らかく仕上がり、脂の融点も下がってまろやかになるんです。」
今帰仁アグーの肉
われわれお客としては、食べたアグーの肉があまりに美味しいので、最初からこの状態なのかと錯覚するのだが、経産豚の肉は硬く引き締まり、とてもではないがこんなに分厚いローストを食べられるものではない。この料理はエイジングブースターが作った肉質あってのものと言えるのだ。
「価格も含めてメリットがある」という、エイジングブースターの使い方
アユのコンフィ
山口弘さんはもともとは大阪の生まれ。料理の道に進みたいと思っていたが、両親からの反対もあり、17歳から美容師の道へ。しかし料理への気持は揺るがず、21歳で改めて料理の道へ進むこととなった。フレンチ出身のシェフが営む居酒屋からスタートし、イタリアンでの修業を経て東京へ。鉄板焼店で料理長としてメニュー作成からワイン選定まで行い、間借りでの営業などを経て、2020年9月に五反田の地でKitchen g3をオープンした。
 
エイジングブースターとの出会いは、料理人が愛読する雑誌「専門料理」の特集記事をみてのことだ。
山口弘シェフ
「もともと、エイジングはしたいけど、あの特有の発酵の香りは要らないと思っていました。肉を柔らかくして、旨みを増す機能に特化した装置はないかと。それがエイジングブースターじゃないかと思い、すぐに問い合わせをしました。」
四国計測工業に連絡をし、詳細を聞くにつけ、自分のイメージ通りのものだと実感。また意外なことに、入手性や価格についてもメリットを感じたという。
「現時点で台数がそれほどなく、調理機器としては高価ではあります。でもそれは、同業者にとって参入障壁になりますよね。他にやっている人がいなければいないほど先行者利益をとれて、店の付加価値になる。そう考えて導入を決めました。」
今帰仁アグーの肉
エイジングブースターが到着してからは、様々な食材を入れて熟成の試行錯誤の日々。使っていく中で、だんだんと自分なりの解答が見えてきた。
「牛肉のような『強い』食材だと、適当にかけてもよい状態になりますが、豚や鶏といった食材だと、熟成によって味の輪郭がボヤッとしてしまい、何の肉なのかわからなくなってしまうことがあります。それだけこの機械で熟成が進むということでもあるのですが、食材のことを理解して使う必要があります。例えば、柔らかさとジューシーさが命であるブロイラーに熟成をかけると、旨みは出ても、水分が飛んで肉が硬くなりすぎ、唐揚げくらいにしか使えなくなってしまう。エイジングブースターの恩恵をどの部分で活かすかを考えないといけないのです。」
今帰仁アグーの肉
現在のKitchen g3でのエイジングブースター活用方法はこんな感じだ。
店の定番となっている牛肉については、岡山県の生産農家から直接、経産牛のサーロインを取り寄せている。一本のサーロインを三分割して送ってもらい、真空パックの上から芯温計を刺して、芯温10℃、庫内温度を-3℃に設定して、3~4日間の熟成をかける。理想的な熟度になったら、肉を営業で使用する分を想定してカットし、アルコールで-30℃の急速凍結をかけて保管しておく。
今帰仁アグーの肉
今帰仁アグーの経産豚の肉は同じような熟成方式だが、肉のポテンシャルが引き出されるのに一週間かけるという。
 
「塊肉をそのまま置いて時間をかけて熟成すると、熟成途中のものや、熟成が行きすぎたものをお客様に出してしまうことになります。そうではなくて、エイジングブースターで最適な熟成状態のものを凍結しておく。アルコール凍結だと肉の質が下がらないので、いつでも美味しくお客様に提供できる。しかも、年末など肉が高くなる時期に買わないでストックしておけるので、経済的にもいいのです。」
今帰仁アグーの肉
また山口シェフの熟成方式の特徴が、基本的に肉を真空パックをしたまま熟成庫に入れることだ。
「僕の場合、熟成で必要なのは水分を飛ばすことではなく、旨みと柔らかさを得ることが目的なのです。その場合、ドライの状態で庫内に入れるよりも、真空をかけたままにしたり、ポリ袋やラップをかけていれるなどした方が水分が飛びません。歩留まりもよく、トリミングが20%以下になるので、経済的です。」
今帰仁アグーの肉
もちろん、熟成を施すのは肉の塊だけではない。アユのコンフィなど魚を熟成するときには、タッパーにオリーブオイルを満たした中に魚体を入れて熟成をかける。
アユのコンフィ
「四国計測工業に食材に風が当たると凍りますよ、と言われたので、直接あてないためにオイルをクッションにしてみたところ、理想的な状態を作ることができました。この機械、料理人の使い方次第でいかようにもできるんですよ。」と茶目っ気たっぷりの笑顔で言われるが、まさに山口シェフの技術は「使いこなし」と言えるだろう。
アユのコンフィ
山口シェフによれば、エイジングブースターでの熟成に、必ずしも向かないものもあるという。
「エイジングブースターのセミナーで、生ハムやワインに熟成をかけたものをいただきました。塩味が馴れていたり、ワインのカドが取れてまろやかになったりしていて美味しいとは思いましたが、均一に熟成が進みすぎるので、それに合わないものもあると思います。時間の経過による熟成とは別の結果になってしまうように感じるんです。」
 
たんに旨みを強くしたいなら、アミノ酸の粉末をかければいいだけのこと。そうではなくて、この食材の酵素分解を進めることで、このような食感と味にしたいのだ、というイマジネーションが遭って初めて、エイジングブースターの能力が生きるという。
 
山口シェフは言う。
「料理人という仕事は、きちんと考えれば儲けを出すことのできるものです。エイジングブースターをどのように使うかを明確にイメージできる人なら、数年でエイジングブースターのコストが回収できると思いますよ。」
山口弘シェフ
小さなフレンチレストランにおいて、食材の価値を高めるエイジングブースターの使いこなしに関心があるなら、五反田を訪れるのが近道かもしれない。
店舗情報
Kitchen g3
〒141-0022 東京都品川区東五反田1-16-4 ALsite 3F
https://kitcheng3.squarespace.com/

四国計測工業株式会社
〒764-8502 香川県仲多度郡多度津町南鴨200番地1
経営戦略本部 マーケティング開発部

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