熟成革新
エイジングブースター研究会
エイジングブースター研究会

これまでイタリアンやフレンチなど、洋の料理の世界で主に用いられ、その効果や可能性が評価されてきたエイジングブースター。だが、一方で和の料理・食材との相性はまだまだ未知数だ。そこで今回は、和食界を代表して、茨城県は「京遊膳 花みやこ」より西野正巳氏をお迎えし、和食におけるエイジングブースターの可能性を探ってみたい。

この実験の舞台となるのは、香川県高松市のイタリアン「Knocking kitchen」。そう、エイジングブースターを開発する四国計測工業(株)のお膝元にあり、この装置を早くから活用している小川翼氏が2021年7月にオープンした、いま注目の新店だ。さらに今回は、”エイジングブースター使い”の第一人者である福島県いわき市のフレンチ「HAGIフランス料理店」の萩春朋氏も加え、和・伊・仏3人の料理人の立場からエイジングブースターの可能性を検証する。

(司会:山本謙治 / 撮影:山本謙治、岩泉雄士)

今回の舞台となった「Knocking kitchen」。7月にオープンしたばかりのお店だが、高松市内からアクセスもよいこともあり、すでに人気のイタリアンとなっている。ここにエイジングブースターを設置し、熟成促進をかけながらの座談会となった。

「京遊膳 花みやこ」
店主 西野正巳氏

西野正巳氏

「Knocking kitchen」
オーナーシェフ 小川翼氏

小川翼氏

「HAGIフランス料理店」
オーナーシェフ 萩春朋氏

萩春朋氏

司会進行
山本謙治

司会進行:山本謙治
大豆・ハチミツ・スプマンテは
エイジングブーストでまろやか方向へ
エイジングブースター研究会
山本:今回はすでにエイジングブースターの使い方をよく知る小川シェフ、萩シェフに加えて、和食の世界から西野正巳さんをお迎えしました。和の食材とエイジングブースターの相性について、ジャンルの異なる御三方からどのような意見が出てくるのか、非常に楽しみです。
西野:皆さん、よろしくお願いします。実は私もすでにエイジングブースターは店で使わせて頂いて、この装置の特性をある程度理解した上で、今日は面白そうな食材をいくつか持ってきました。
西野正巳氏
山本:西野さんからの提案食材、非常に気になりますねえ。ですが、まずは今回の舞台である「Knocking kitchen」のオーナー・小川シェフに口火を切ってもらいましょう。小川シェフ、今日はどんな食材を試してみましょうか?
小川:はい。私からは、大豆、ハチミツ、スプマンテ(スパークリングワイン)、この3つを今日は実験食材として提案したいと思います。
小川翼氏
山本:ほお、大豆ですか。水で戻した大豆を装置に入れると?
小川:いえ、今回は装置のなかで、大豆を水と1%の塩で戻したらどうなるのか、この変化を見てみたいと思います。あとは、これまで試してこなかった食材として、蜂蜜、そして泡の多いスプマンテでも変化を確かめます。
蜂蜜とスプマンテ
大豆はすでに装置にかけていますので、蜂蜜とスプマンテを装置にかけている間に、大豆からさっそく食べてみましょう。
装置にかけた大豆
左:エイジングあり 右:なし
装置にかけた大豆
左:エイジングあり 右:なし
山本:お、きました!これの庫内設定はどのように?
小川:表面10℃、芯温25℃、熟成時間は8時間です。装置にかけていないものと一緒に手に取って食べてみてください。
装置にかけた大豆
装置にかけた大豆
萩 :うん、明らかにまろやかな味わいになっていますね。そもそも品種が違うんじゃないかというくらいに差がある。
小川:まろやかになっているし、後味の余韻が長くなっていますね。
西野:舌に残る余韻だけではなく、残り香もしっかりしていますね。これで豆腐とか作ったら面白いかもしれない。
萩 :以前、湯葉は試したことがありますが、エイジングさせながら戻した大豆で作る豆腐は確かに面白そうですね。
小川:実は僕も萩シェフの湯葉のことが頭にあって大豆を選んでみたのですが、吸水の具合がエイジングで変わっているのかもしれません。
以前、塩漬けのマリネとソミュールのマリネをそれぞれ装置にかけてみたんですが、ソミュールの方が、浸透性が高くて味が全然違いました。
小川翼氏
山本:いきなり面白い結果が出てきましたねえ。さて、蜂蜜とスプマンテのエイジングも終わったようです。こちらも試してみましょうか。
小川:では、まずハチミツから。0℃・15℃、風量60%で30分です。皆さん、どうでしょう?
蜂蜜とスプマンテ
一番右がハチミツ
萩 :大豆と同様に、強い刺激がなくなってまろやかになっていますね。
西野:そうですね。私も同感です。
山本:これまでのエイジングブースターのセオリー通り、蜂蜜はまろやかになるという感じですね。次に注目の泡物、スプマンテはどうでしょう?
装置にかけたスプマンテ
萩 :あ、泡の見た目がもう違いますよ!装置に入れた方が、泡が細かい。
山本:本当だ!泡の大きさが全然違う。ちなみに小川シェフ、これの庫内設定は?
小川:0℃・25℃で30分です。泡の見た目もそうですし、口に含んだ感じも装置に入れた方がきめ細やかですね。
装置にかけたスプマンテ
萩 :これはシャンパーニュに近い、高級な泡の立ち方ですね。
以前、コンビニで買った600円のワインを装置にかけたことがありますが、その時も600円のワインが2,000円のものくらいには変化しました。
西野:私も以前、ビールを装置に入れたところ、泡が細かくなって、スッとした口あたりになりました。
だから、炭酸系はエイジングさせることで変化が大きく出るということでしょうね。
西野正巳氏
山本:エイジングブースターの作用として「食材の味わいにまろやかさが出る」というのがわかりやすい効果として確認されてきました。そのロジックとして、たんぱく質の分解が促進されること、油脂分も分解が進むことが上げられます。
大豆はたんぱく質と油脂を含んでいるので、この結果は不思議ではありません。でも、ハチミツとスプマンテはいったいなんでこうなるのでしょうかね(笑)。とにかく、料理人にとっては嬉しい変化だと思います。
エイジングブースターで脂質が大きく変わる!
とんかつとオリーブオイルの実験
山本:小川シェフの食材が一通り終わったところで、続いて萩シェフのターンに移りましょう。まずは今回の食材を教えてください。
萩 :はい。今回は店の古くなってしまったオリーブオイルと、とんかつにチャレンジしてみたいと思います。
萩春朋氏
山本:古くなったオリーブオイルというのは、つまり酸化したオイルがエイジングブースターでリフレッシュするってことでしょうか?もし本当ならスゴいけど、あるのかな。
そして、よりによってとんかつ!?エイジングさせた豚肉をカツにするということですか?
萩 :オイルはそういうことなんです。個人的にやってみたところ、鮮度が戻ったとは言いませんが、それに近い状態になった気がして。みなさんに確認していただきたいんです。
とんかつについては、豚肉にパン粉をつけた状態で装置に入れてみたいと思っています。それによって、揚げ色がどう変わるか。また、脂身と赤身で味がどのように変化するのか。この辺を皆さんで検証してみましょう。
山本:では、一度厨房に場を移して、萩シェフにとんかつを作って頂きましょう!
萩 :今日は思い切って極厚のとんかつにしてみようと思います。
山本:おお!こんなのとんかつ専門店でも見ないような分厚さですよ!
とんかつを調理する萩春朋氏
萩 :これにパン粉をつけて、0℃・20℃、風量80%で30分、装置に入れてみます。
装置にかけたとんかつ
エイジングしている間に先ほどハチミツと一緒に装置に入れたオリーブオイルを試してみましょう。
装置にかけたとんかつ
一番左がオリーブオイル
山本:ハチミツと同じ条件ということは、庫内設定は0℃・15℃、風量60%で30分ですね。オリーブオイルということで、イタリアンの小川シェフ、どう感じますか?
装置にかけたとんかつ
小川:分解が進んで、辛みなどがなくなっていますね。なので、料理に合わせやすくはなっていると思います。
ただ、その分、個性がなくなってしまい、青い香りや辛みがあるものを良しとするオリーブオイルの評価基準でいうと、評価を落としているというのが正直な感想ですね。
山本:なるほど。たしかにこのオリーブオイル、エイジングブースターにかけたことによって、サラッとしてクセのない味わいに変化していると思います。エイジングしていないものにはハッキリと辛みを感じます。
どちらかといえばこのクセのないまろやかなオリーブオイルを好む人もいそうですが、ヨーロッパ的な評価基準からすれば、装置によって分解が進むことはオリーブオイルにとってはプラスにならないかもしれませんね。この辺は好みということでしょう。
さて、とんかつのエイジングが終わりそうです。いよいよとんかつを揚げていきましょう!
揚げているとんかつ
揚げているとんかつ
萩 :これだけの厚みがあるので、二回に分けて揚げます。揚げている見た目はそこまで違いがありませんね。
さて、二度揚げをして、、、お、そろそろ良いかな
一同:おおー!
とんかつの切断面
とんかつの切断面
山本:素晴らしい火入れ加減!これは明日からとんかつ屋開けますよ(笑)!
萩 :今日はこれを失敗したらどうしようかと、内心ヒヤヒヤでした(笑)さあ、アツアツのうちに食べてみましょう!
装置にかけたとんかつ
左:エイジングあり 右:エイジングなし
小川:脂身が柔らかくなっていますね。あと、衣が全然違います。装置に入れた方が軽くて、フワフワしている。
山本:本当だ。脂身の分解がよく進んでいるし、パン粉の質感もよくなっていますね。
西野:私も脂身の変化を感じます。ただ、赤身の部分が変化するにはもう少し時間がかかりそうですね。なので、細かくサシの入った肉の方が、変化が分かりやすいのかもしれない。
萩 :確かに赤身の肉部の変化はもう一歩ですが、脂身が柔らかくなって、衣は軽くなりましたね。今回は豚肉そのものが美味しかったのですが、豚肉によってエイジングブースターの活用法も変わってきそうです。
小川翼氏、萩春朋氏、西野正巳氏
山本:ここまでの小川シェフと萩シェフの食材では、やはりエイジングブースターに入れることによって、さまざまな食材の味がまろやかになったり、泡物であれば泡が細かくなったりすることが確認できました。
また、とんかつという複合的な食材で構築された料理をエイジングブーストしたわけですが、肉と脂、そして衣それぞれの質感にプラス方向の変化がありました。
この結果はこれまでの経験上、”想定内”なわけですが、これが和の食材ではどうなるのか。いよいよ、西野さんの食材で実験をしてみましょう!
つづく

四国計測工業株式会社
〒764-8502 香川県仲多度郡多度津町南鴨200番地1
経営戦略本部 マーケティング開発部

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